腐乱死体と聞いても現実味がなく、なかなか想像しがたいものです。腐乱死体とは死後何日も経ち、遺体の発見が遅れたときの遺体の状態です。近年、孤独死が急増しているため腐乱死体として発見される件数も多くなっています。腐乱死体があった部屋は普通の掃除ではきれいになりません。
そもそも一般人が清掃するのは困難な状況です。腐乱液でドロドロになった床、部屋に入ることさえ躊躇してしまうほどのニオイ…こういった部屋の原状回復を専門におこなうプロが特殊清掃員です。遠く離れたご家族や親せきが孤独死してしまう可能性はゼロとは言い切れません。また賃貸住宅のオーナーであれば住居者が知らない間に死んでいた、というケース考えられます。
今回は、特殊清掃を中心に腐乱死体を発見したとき、とるべき行動などをお伝えします。万が一、そのような状況になってもあわてず行動できるよう知識を身に付けましょう。
腐乱死体とは普通の死体と何が違うの?
腐乱死体と聞くと普通の病院で看取られて亡くなるような遺体とは違うことはわかりますが、実際はどのような状態なのでしょうか。人間が腐るとはどういう状態なのかを説明していきます。
状態が違う
人間もナマモノです。死ぬと当然腐敗が始まります。夏場や暖房の効いた部屋なら2~3日、冬場でも5~7日で腐敗が始まります。微生物の力で肉体が変質し、見た目はただれていき、悪臭を放ちます。発見が遅れる場合には、一人暮らしの孤独死が多いです。病気で亡くなるケースもあれば、前触れもない突然のケース、自殺といったケースもあります。いずれにせよ、遺族の家族や大家さんが発見するパターンが多いです。
・虫が湧く腐乱すると、虫が湧きます。ウジムシ・ハエ・ゴキブリが遺体を食べに寄ってきます。ハエは閉め切った部屋でもわずかな隙間から侵入し、遺体に卵を産み付けます。1回の産卵で50~150個ほど、3日もあれば産まれると言われます。その後5~10日で幼虫(ウジムシ)になり、すぐにハエへと進化します。
ウジムシからハエになる期間はわずか2週間なので、発見が遅れるほどハエの数は膨大に増えていきます。窓にハエがびっしりついて、ハエの羽の振動で窓ごと揺れていることもあるようです。
・死体があった箇所腐乱死体があった箇所も状況によって状態が変わります。死後経過が進むと、体液・腐乱液が染み出します。腐乱液は布団、畳、床へと浸透しドロドロになっています。人型で黒く染みができて、まるで影法師のようになることもあります。亡くなる場所はトイレやお風呂場も多いです。
トイレの場合、いきんだ拍子に突然倒れて亡くなるケースも少なくないので、トイレ内は腐乱液で床から便器までドロドロと赤黒くなっています。お風呂場では、浴室内で亡くなると遺体が溶けだし、浴室内の水が赤黒く変色します。浴室の底を掻き出すと髪の毛や皮膚などが浮かび上がります。
臭いが強烈
人間の腐乱死体のニオイは強烈で、例えようがないと言われています。「人間ではないけど、動物の死体なら遭遇したことがある」という方もいるでしょう。ネコやイタチ、ネズミといった動物よりも人間はサイズが大きいのでニオイも何倍もきつくなります。科学者により、科学的に腐敗臭の検証実験がおこなわれたことがあります。
実験の結果、ニオイの成分は、カダベリンとプトレシンという分子であることがわかりました。これはアミノ酸リシンとメチオニンがそれぞれ分解するときに発生する分子です。死のニオイとは、およそ400種類以上のきはつ性有機物が複雑に混ざり合ったものだそうです。きはつ性有機物とは、大気中に蒸発しやすい化合物で、液体が気体になるとき大気汚染物質になります。
腐乱死体を発見したらどうしたらいい?

もし腐乱死体を発見してしまったら気が動転して何をしたらよいかわからなくなります。ショックが大きいでしょうが、ここは落ち着いて的確な行動が必要です。
① 警察へ連絡
生死が不明のときは救急車を呼びますが、腐乱死体では明らかに生存していません。警察へ連絡しましょう。警察により、現場検証や検視がおこなわれます。
② 家族へ連絡
遺族がわかるようなら身内の者、賃貸住宅ならオーナーに知らせましょう。警察でも身元確認をしたあと、遺族へ連絡をしてくれます。その後、遺体安置所で本人確認となります。
③ 手続き
自分が遺族だった場合、死体検案書とともに遺体が引き渡されます。手続きなどの説明もされるのでよく聞き、手順のとおり手続きを済ませます。
④ 遺品受け取り
自分が遺族だった場合、遺品が返却されます。家財道具など返却に困るときは処分しましょう。
賃貸住宅で発生した場合、するべきこと
孤独死による腐乱死体は、持ち家だけでなく賃貸住宅でも起こりうることです。故人が賃貸住宅に住んでいた場合、残された遺族が知っておくべきこと、またご自分が賃貸住宅のオーナーだったとき、知っておくべきことを説明します。
遺族が知るべき必要なこと
賃貸住宅で家族が腐乱死体で発見された場合、責任義務などやらなければいけないことがあります。
・部屋の原状回復腐乱液による床や畳への損害などにより、特殊清掃員によって原状回復をしなければいけません。万が一リフォーム費が高額で支払えないときは相続放棄によって支払い義務をまぬがれます。
・損害費用故人が借りていた期間の未払いの家賃や、明け渡すまで日数がある場合の支払いを済ませる必要があります。またそのような事件がおきた部屋はなかなか次の借り手が見つからないため、家賃を下げる必要がでますので、損害費用を請求されることもあります。
・賠償問題トラブル上記で説明した、損害費用による賠償問題でオーナーとトラブルになることがあります。ただ、人が亡くなることは生きてくうえで自然現象なので、一概に連帯責任として責められるわけではありません。しかし自殺だった場合、故意によるものとして賠償責任請求されやすくなります。
賃貸オーナーが知るべき必要なこと
部屋を貸していると孤独死や自殺が起こる可能性もあります。このときオーナーはどうするべきなのかを説明します。
・特殊清掃を依頼部屋をそのままにしておくこともできません。また、素人が簡単に清掃できるものでもないので専門の業者へ依頼しましょう。
・遺品の処理家財道具を処分しなければいけません。特殊清掃員に頼めば、すべて持ち運んでくれますが、まず遺族に遺品の明け渡しの確認が必要です。
・遺族への請求費用原状回復費など損害費用を請求する際に、遺族との金銭に関するトラブルが起こりがちです。そのようなときに対応している保険に加入しておくとよいでしょう。「賃貸住宅費用補償保険」など、原状回復費や家賃損害を補償してくれる保険があります。
素人での掃除は可能?無理せずプロへおまかせ

大切な家族が亡くなったときは、自分が最後まで見届けたいという気持ちになることがあります。素人の方が特殊清掃をするなら、それなりの道具が必要です。
ひとつずつ用意するのは大変ですが、素人が清掃するのに必要な道具セットも販売されているのでチェックしてみるとよいでしょう。しかし、やはり素人では限界があります。また、自分である程度清掃してから、プロへ依頼することも可能ですので、やはり業者依頼の検討をおすすめします。
特殊清掃業者もこの頃の孤独死の増加に伴い、数が増えています。安心して業者にまかせるためには業者選びが大切です。どのような業者を選べばよいかポイントでまとめます。
まとめ
発見が遅れることによる腐乱死体は、想像できないほどの惨状です。見慣れているプロでもときにはつらくなる現場もあるようです。家族や、知り合いがこのような状態で発見されれば、どうしたらよいかわからなくなってしまいます。自分が第一発見者となれば、さらにパニックになるでしょう。
今回、腐乱死体を発見した場合の対処法や、故人が賃貸住宅に住んでいたケースを遺族側とオーナー側の両方から知っておくべき点をまとめてみました。もしこれから発見者になったときは、落ち着いて適切な行動を心がけましょう。そして清掃は素人では困難なため、信頼できる専門業者を見つけることをおすすめします。